
在りし日の「くま(仮名)」さんと共に「早く頂戴」している「ちち(仮名)」さん。「くま(仮名)」さんはいつも「ちち(仮名)」さんに攻められ、追いかけまわされていて、形勢不利とみると家族の傍らにピタッと寄り添ってきたり、自分のケージに逃げ込んだりしておりました。そのくせ、「ちち(仮名)」さんがいないときには、彼女のケージに入り込んで食べ残されている餌を失敬するのが常でした。そして寝るときにはよくおなかを上に向けた「ヘソ天」の姿勢をとっておりました。したたかで、けっこう肝の据わったワンコだったのです。いっぽうの「ちち(仮名)」さんは、ふだんの勢いはよいけれど、実は臆病で小心者。いまだにヘソ天などしているところ見たことがありませんし、外に出ると本当におしとやかでおとなしいワンコなのです。

お片付けをしていると、自分の結婚式の写真が出てきました。式場のスタッフが撮影して記念品として持たせてくれたものですが、しっかりとガラスの写真たてに収まっているにもかかわらず、大昔の写真さながらにセピア色になっておりました。おじいさん夫婦の結婚式の写真だよと言っても通用しそうな雰囲気です。
写真の大橋堂と同じものを、かつて所有し、よく使っておりました。職場の机が常駐先で、仕事で字を書くときに使っていたのです。当時はNECのPC-9801シリーズがDOS/Vに押されまくっていた時期。私も98を捨てて、チャンドラー2にWindows2000を入れてバリバリ仕事に使っていた時期ですが、学校というところ、パソコンで出力した文字よりも手で書いた文字の方が心がこもっているので尊い、という文化が日本でも最後まで残ってい・・・る職場。そう、けっして過去形ではありません。いまだにその風潮は少なからず残っています。

38年教員をやって、そのうちわずか3年だけ務めた職場。市内の学校には設立順に番号がついていて、その職場は10番台。けれど設立時に2番の学校から大量に職員が移動してきて「作った」学校なので、2番の学校そのまんま、という雰囲気に満ち満ちている学校でした。
そのA校に異動して間もない私は、「(2番の)B校ではこうするのよ。」という教えを日に何度も受けておりました。もともと先生らしくないといわれまくっていた私ですので、上から下まで、そして体の芯まで先生でなければならない、という感じのB校派の先生から見まことに目障りな存在だったのでしょう。で、当然のことではありますが、「B校ではこうするのだ」と言われたことは徹底的に無視しておりました。
着任したとき、職員室の誰もが皆、自分の印鑑を捺した小さな紙を100円するかしないかの普及品のボールペンの透明軸の中に入れているのを見て、オモロいことしてるなぁ、と思っていたのですが、悪意でも何でもなく、とにかく目についた筆記具をひっつかんでメモを取る、ということが日常的に行われている職場で、そうでもしておかないと自分のボールペンがなくなってしまうからだ、と聞かされました。ちなみにB校においても、そうすることが常識だったそうです。当然、あえてそれをしなかった私のボールペンは毎日新しいものになっておりました。

当時、ちょこちょこと文字を書く際には多角形断面の軸を持ったマットブラックのキャップレスを使い、しっかりと書類を書く際には大橋堂を使っておりましたが、2本とも、この3年の間に行方不明になりました。萬年筆なんてものを知らない人たちが大半でしたから、ノックして書こうとしてもうまく書けないので、クソッ、と言いながらその辺に放置、っていう現場に何度か遭遇できたので、そのたびに回収しました。けれど、おそらく親切な人の手に握られたときにも「書けなかった」のでしょう。「B校では」整理整頓が最優先ですから、「書けない」ペンは捨てておいてあげなくては、というご親切にあずかったものと思います。
でも、そんなに忙しい人たちが、日本一ねじの遅い大橋堂のキャップを外すヒマなんかあったのでしょうか。ひょっとすると、キャップが外れないからこんなモン書けるかっ、とゴミ箱行きになったのかもしれません。

あれから四半世紀。偶然同じモデルを某巨大オークションで見かけたので、高いなぁと思いつつ落札。何も考えずにインク瓶にドボンと漬けてとりあえず書いてみました。ペン先は大丈夫そうです。それにしても、インクをぬぐうってことを知らんのですか、わたしは。
胴軸をひねって分解すると、セイラーのコンヴァータが入っておりました。前オーナーは青系統のインクを使われていたようです。インクが何かはよくわかりませんが、青墨だったり蒼墨だったりしないことを祈るばかりです。これから、しっかりとペンを洗浄して、そのあとはまさしくセピア色に変色してしまった軸をしっかりと磨いてやりたいと思います。夏服の時期ですから、シャツの胸ポケットに挿しているのもあの頃と同じ、多角形断面でマット軸のキャップレスです。今度は、どこへも行かないでほしいものです。
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