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2022年6月18日 (土)

大物・桁違い

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 週末なので、今日は早めに営業終了です、という「ちち(仮名)」さん。いつもは食卓の下で、大好きなお母さんの脚に寄り添うように寝ているのですが、さて水を飲みに行こうとすると、立ち上がることができず、キュンキュンと哀しげに鳴くのです。寄る年波で後ろ脚の力が弱くなっていることに加え、寝ている場所がつるつるのフローリングですからそうなるのですが、ここ数日は体調が良いのか、鳴くことも滑ることもなくスッと立ち上がっているようです。

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 東大寺の修二会、いわゆるお水取りの「時間割」です。六時の業法といって、日中(にっちゅう)、日没(にちもつ)、初夜(しょや)、半夜(はんや)、後夜(ごや)、晨朝(じんじょう)に区分されて、日によって長さも違います。この中の晨朝の頃まで見学をしていますと、体は芯まで冷えて、眠気で頭の中に蜘蛛の巣が張ったような状態になっております。

 私も見学させて貰っている最中にこっくりこっくりし始めて、夢うつつの中、お坊さんがこちらに近づいてくるのを感じました。悲しい性で、「アカン、叱られる!」と中二男子みたいな反応をして目を開けると、お坊さんが「手を」とおっしゃるので、反射的に手を出すと、お坊さんは私の手にお香水を授けてくださったのです。

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 この本の写真は、お堂の外の方から手を差し入れてお香水をいただいているところ。そして、この本こそが、本日ご紹介する桁外れの大物なのです。自分がこの本を買ったこと、そしてそれが確実に自分の家のどこかにあることはわかっていました。その点、片付けに際して発掘されるあまたの萬年筆などとは違うところです。はっきりと、自分が買った、そしてとても大切に思っている、という本なのです。

 今はもう閉店してしまったのですが、近鉄大和八木駅のガード下にあった本屋さんで見つけたのです。本当に小さな小さな本屋さんで、文庫本ですら今注目されているような新刊書などは滅多に置いてない、そう、もう枯れてしまった本屋さんでした。まだamazonなんてなかった時代ですし、ネットで本を買ってコンビニエンスストアで受け取り、なんてこともありませんでした。そもそもコンビニエンスストア自体珍しい時代でした。だからこそ、そんな「不便な」本屋さんでも商売をしていられたのだと思います。もちろん、昭和の時代の話です。

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 段ボールです。段ボールにシールを貼ってある、それが、本棚にドンと鎮座していたのです。パッと見ただけで5,000円はいくよな、という感じの本。こういうものは、中を確かめてはダメなのです。中を見てしまったら欲しくなってしまいます。萬年筆は書いたら負け、ワンコは抱いたら負け、と言われているのと同様で、本は立ち読みしたら負けなのです。

 けれどこの本は手強く、立ち読みなんてできません。段ボールの中に本が入っているので、まずは本を取り出すところからです。けれど、非常に大きくて重たい本なので、立ち読みの態勢でそういうことはできないのです。

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 段ボールの中に、厚紙のスリーヴに包まれた本の布ケースが入っていて、その中に「本」の本体が収まっています。えらいモノを見てしまったと後悔したのですが、その時点(書店の中)では、こういう豪勢な造りになっているなんてことは想像も付きません。そういう上等な本を手にしたことがなかったからです。

 しかし、これがお水取りの本であること。それがすべてです。大学時代に教わった教授のお一人が、毎年お水取りの「声明(しょうみょう)」を聞くために二月堂に通っていて、東大寺のお坊さんからも顔を覚えられてしまっている、というヘンタイな人でした。その人の影響もあって、お水取りには興味と関心が高かったのです。その当時は、3月12日を除けば普通にお水取りの松明を見ることができましたし、世間一般の関心も低かった時代です。残念なことに、マスゴミ様の煽りやネットの情報で、お水取りの何であるかも理解していない人が山のように押し寄せるようになって、もはや奈良の人が見に行くこともなかなかできない、という状況になってしまったのは実に残念なことです。

 重たい段ボールを抱えて、レジに向かいます。この本をあの棚に収めることが本当にできたんだろうか、というようなお爺さんが店番をされていて、「はい、1950円」とおっしゃったのでした。惜しいことをしました。そのまま、千円札を2枚出して帰ってくることもできたのです。もしそうしていたら、この本は文字通り、我が家の「秘蔵本」となっていたことでしょうが、今以上にバチがあたっていたことでしょう。

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