区切り
かつては動いていた看板ですが、今は照明のみ。夢を食べるといわれる貘が、このお店のシンボルであり、マスコットでもありました。看板の下に見える灯りが、萬年筆の救急救命室、ペンランドカフェです。この古びたビルの1階にラーメン店がオープンした日のことを良く覚えています。それでなくても狭いお店の前の歩道には順番待ちの人があふれ、店内のオペレーションは円滑とは言えない状態でした。
この急な階段を上ってしまうと、萬年筆の高みに堕ちてしまいます。それでも、この階段を上った人の数は数えきれませんし、何より、この階段の上で店長をやっている人が群を抜いて高いところへ堕ち込んでしまっていると言えるのではないでしょうか。
接客し、飲み物をサーヴしてくれるだけだった美女も、同じように高みに堕ちてしまっています。古びた萬年筆を集めてきて、愛してくれる人に引き継ぐこと、底カラ始まったお店にはやがて神戸の鞄が並ぶようになり、店長が好奇心からはじめたペン先調整や萬年筆の修理は、今やこのお店の金看板です。
名古屋近辺の萬年筆愛好家の中には、このお店に「住んで」いると言われている人も少なくないように思います。ごくごくたまにしかこのお店に顔を出さない私ですが、いつ行っても必ず、知っている顔を見ることができます。いつもこの場所に座ってお茶を飲んだり、飲茶セットに舌鼓を打ったり。今時珍しい、煙草が吸える喫茶店でもあります。
この光景が見られるのも今月いっぱい。今日はラーメンを食べることもなく、飲茶をするでもなく、2階に「住んで」いるお客さんと、なぜか秋葉原のお話などをしておりました。そういえば、東京へ行ったら必ず秋葉原に立ち寄っていたものですが、そんなときに通っていたお店も姿を消しています。
幸い、ペンランドカフェは閉店ではなく、大須通りに近い方へと移転されます。新しいお店もまた、萬年筆沼にどっぷりハマった人たちのたまり場として、そして萬年筆のERとして人が集まってくることでしょう。それには大いに期待しつつも、確実にひとつの時代を作った古びたビルの2階がなくなることに、寂しさを感じないわけにはいきません。
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