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2009年8月 6日 (木)

カマンゲリヲン

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 ご主人様、作業されるなら軍手をどうぞ。そんなしおらしいことを言うはずもない「ちち(仮名)」さん。家族の誰かがケージの近くを通るたび、軍手をくわえて立ち上がり、遊んで頂戴アピールをするのです。まもなく1歳の誕生日を迎える彼女、次第に大人らしくなってきたのでしょう、ダメとわかるとすぐにあきらめて寝てしまうようになりました。

 下の写真、瓦礫の捨て場ではありません。学校の中庭です。撮影者がファインダーから目を離せば、校舎沿いに作られた花壇が見える、そんな場所なのです。3年ほど前、生徒たちと、この場所にBBQ用の炉を造りました。と言えば聞こえはいいのですが、実際には授業妨害する生徒たちの「雇用対策」だったのです。
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 「先生がダメだから生徒が言うこと聞かない」というのは、今や常識になってしまったようです。そんな教師に給料払うのはもったいない、というのがマスコミによって張られたキャンペーンで定着しておりますから、無駄な公共事業には金を出しても教育には金は出せん、と行政も強気です。お金がないのはわかりますが、ぜひ一度、しっかりした方に来ていただいて、一発で生徒に言うことを聞かせるお手本を示していただきたい。全国の教師はそれを切望してるんじゃないでしょうか。

 授業を受けないだけではなく、積極的に授業妨害を続ける生徒達。板書を生徒が写している教室に乱入して黒板消しでさっと一拭き。リスニングテストの最中に大音量で音楽を流しつつ廊下を走り回る。「頼りない」我々にはどうすることもできませんので、「休業補償してくれるんかっ!」と凄まれつつ保護者に来ていただいても、「オバはん何しに来たんじゃっ、帰らかいっ、シバくど!」の一言でさようなら。

 「小さい頃は良い子だったんですよ」と恨めしそうに教師をにらみつけて、さっさと帰っていく保護者。そうだったのか、この子達がむちゃくちゃなのは私たち教師が100パーセント悪かったんだ・・・。
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 でもね、ヤッパリ血の通った人間ですし、なんといっても15歳までの子どもなんです。勉強大嫌いだった私は相性が合うみたいで、そんな連中を完成後の焼き肉を餌におびき寄せて作業に参加させたのでした。

 築造中のコードネームはカマンゲリヲン。まずはじめに零号機、続いて初号機と、2基のBBQ炉が完成して2年。クラスや部活動の親睦会などに活用されて、なかなかに好評だったのですが、昨年あたりから、カドの部分を意識的に欠けさせたり、炉の中にゴミを突っ込んだりする「破壊活動」が見られるようになってきました。

 犯人は・・・おそらく、というより確信を持っていいますが、ごく普通(に見える)生徒達です。髪型や服装が異様で、明らかに目立つ「突っ張った」生徒達は、この炉を作るのに参加した(突っ張っていた)先輩たちが怖いのでやりません。親や教師の前では問題のない生徒なのに、影ではけっこうエグいことをやる。しかも、絶対と言っていいほどしっぽをつかませない。そういう生徒がじわじわ増えてきていて不気味です。
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 この夏休み前には、とうとう2基とも使用不能になったので、中破していた初号機をまず修理。とはいえ、割れてしまった煉瓦を取り除き、BBQ炉を増設するために買ってあった耐火煉瓦を使って積み直しましたので、3年前に子ども達が積んだ煉瓦は、ほとんどが瓦礫になってしまいました。

 壁際に積まれた煉瓦。木の下で日が当たらない場所なので、ムカデが潜んでいるのは確実。同僚の先生にお願いして煉瓦を運んでいただいたのですが、下の方にはゴキブリの巣があって、ほとんどハムナプトラの世界だったとか・・・。危ない危ない。私が見ていたら意識を失っていたことでしょう。

 耐火煉瓦をつなぎ止めるモルタルも耐火仕様。砂の代わりに硅砂(けいしゃ)という、ガラスの原料にもなるサラサラの砂を使います。これが実に扱いにくく、夏場ということもあってなかなか煉瓦がくっつきません。砂を骨材にした普通のモルタルは、食べ頃のアイスクリームにスプーンを突き立てた感じなのに対して、硅砂を使ったモルタルはシャーベットみたいなしゃくしゃくした感じです。ねっとり感が少なく、1日たって乾いてからも表面をこするとボロボロと砂粒が落ちます。本当に煉瓦がくっついているのかな、と心配になって、力を入れて押してみるとポロッと外れる、そんな試行錯誤を繰り返すこと3日間、ようやく2基とも修復できました。
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 このぐらいですと、水糸を張らなくても水準器をあてながら積んでいけば何とかなります。壊されたBBQ炉の周りには、写真に写っている鉄の棒がありませんでした。おそらく、この棒を手に持って振り回したくて、棒をつかんでガタガタぐいぐい。炉は壊れても、めでたく棒を手にした生徒は、さぞうれしかったことでしょう。目の前にある物が欲しかったらとにかく手に入れる。「ちち(仮名)」さんと同レベルの中学生たちです。

 朝食昼食抜きでも、それが習慣となっている私にはダイエット効果はありませんが、月曜から水曜までの3日間、9時から5時まで水も飲まずに作業に没頭していると、さすがに効きます。ここは職員室から遠く離れた辺境の地ですし、実は左官作業が大好きなので、ついついノンストップでダァ~っとやってしまうのです。毎月受けている糖尿病の定期診断、今回はこの作業の後で受けたので体重も数値もバッチリ。日頃、いかに運動不足であるかを思い知らされたことでした。

 炉が完成しても煉瓦が大量に余りましたので、炉の周囲に煉瓦を敷いてみました。春から秋にかけては、炉の周りに草が生い茂り、近くに人が来なくなります。それが破壊活動の発見を遅らせたという反省からですが、なかなか良い感じです。

 来週初めに生徒会の研修会でこの炉を使うので、とりあえずここまでで中断。今後、夏休みの残りを使って恒久的な舗装を施していく予定です。でないと、今度はこの敷き煉瓦を投げるという遊びが、おとなしく目立たない生徒達の間で密かに流行してしまいますから・・・。
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コメント

「普通」の子供達の不気味さ、私もすごく実感しています。自分を表現しなくなった人間の恐ろしさを感じます。

さて、BBQで想い出すのが、数年前、京都清滝に行った時のこと。大学生がBBQをしていたのですが、なかなか炭火を熾せなかった様子。そこで、そばで焚き火をしていたおじいさんに、「すいません。炭焼いてもらえますか」と尋ねていた。おじいさんは、呆気にとられていた。学生は、何がおかしいのかというような怪訝な顔。面白い光景でした。

いずれにせよ、ガスや電気に頼る生活をしている子供達には、火を熾すところから、新鮮な体験ではないのでしょうか。

 Bromfield さん

 火起こしというと新聞紙を丸めて火種にしようとする人が多いのですが、これ、たいてい失敗するんですね。新聞紙使うのなら空気を入れてほわっと。

 ところで「炭焼いて」なんですが、意外とこれが正解。肉を載せる網の上に炭を置いて火をつけますと、なかなかいい具合に炭が「いこる」んですよね。

 ホットプレートで焼肉すると200グラムほどでお腹いっぱい,という人が炭火網焼きなら300はいきますね。脂も落ちるし、屋外でワイワイやるという勢いもあるんでしょう。

 中学生は経験が足りないので、清涼飲料水呑みながら焼肉する子が多いのです。これで300食べられるところが200でストップになって、肉を買う立場の者は助かります。

はじめてコメントさせていただきます。つきみそうさんとは何度もおめにかかっていてこのブログも拝見させて貰っているにも関わらずなかなか参加出来なかったんですが先日、はじめてお伺いした神戸のかばんやさんでつきみそうさんの話題になり妙に盛り上がりましてその事を報告したくてコメントさせて頂きました。かばんやさんは初めての私にたくさんの万年筆を見せてくださり帰るときには初めて来店したとは思えない気持ちにして下さいました。元町のPMさんといい神戸に行く機会が多くなる今日この頃です。
関係無い話ですが私の今は無き父母も奈良県人で私も本籍は奈良でして高校もN大付属高校なんです。
ですのでつきみそうさんは僕的には大変、親しみのある方なのでこれからも時々、おじゃまさせて頂きまがよろしくお願い致します。

先生の御苦労察するに余りあります、食育(しょくいく)を調べてみると、[様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てることである。2005年に成立した食育基本法においては、生きるための基本的な知識であり、知識の教育、道徳教育、体育教育の基礎となるべきもの]教育とはまさしく時間がかかる食育なのでしょうね、尊厳をもって人の話を聞き、想いを持って自らを語らん、そんな立派な大人になって欲しいと願うばかりです。

 しげお さん

 明日の今頃は仙台空港への着陸態勢に入ってらっしゃる頃でしょう。快適な空の旅であること、そして充実した例会になりますことをお祈り申し上げます。

 私も本籍は奈良県で30歳過ぎまで大阪府民でした。N大附属高校へは歩いて行けるところに住んでますし、そのすぐそばの学校に勤めていたこともあります。

 先の細い萬年筆求めてわざわざ夜行で東京へ行くあたりが普通じゃない、という匂いは感じてましたが、何というご縁・・・これからもどうぞよろしくお願いします。

 ちなみにル・ボナーの店主は、時折、鞄や革の話をするという異様な行動に出ることがあります。これはそこらのヴィンテージものの萬年筆より珍しいので遭遇できるとラッキーです。

 夢待ち人 さん

 食育って、考え方は素晴らしいと思います。変な格好して突っ張っているような生徒に話を聞くと、朝ご飯食べてないとか、弁当の用意もないとかいうのがゴロゴロいます。まさに食は人なり、です。

 以前、見た目の怖い中学生5、6人と焼肉をしましたら、一番いかついヤツが焼けた肉をさらに入れてくれたりと世話を焼いてくれて、ものすごく繊細で気配りできる子だとわかりました。大人がお近づきになるために「呑む」のといっしょなんですね。

 先生と言う立場は、本当に大変なことであろうと思います。

 個人的な考えですが、子供のそういった問題は家庭に原因があるのではと思っております。
もちろん、その親御さんが直接悪いってことではなく、その親御さんもまた被害者であるのでは?・・・と。

 高度経済成長あたりに端を発する核家族化や共働きなどにより、家庭内でのコミュニケーションや人間としての教育が少ない中で育った方が、今度は親として教育する立場になれば、うまくいかない家庭も当然でてくるかと思います。

 そういった負のスパイラルに今日本が陥っており、その結果として教育現場の方が苦労をしている・・・のではないかと思うのです。

長文、失礼しました。

 su_91 さん

 先日名古屋でお会いした折に夢待ち人さんが一言「まぁ順送りだな」とおっしゃったのが印象的でした。結局、自分が親にしてもらったことを自分の子どもにしてやるんです。そう考えると、今の親たちに「具合の悪い」人が多いのは、そのまた親にも問題があったということ。そしてその人たちを育てた教師にも問題があったということです。

 今、校長をやっているような年代の先生たちの中には、結構ひどい人もいたようです。そして残念ながらそういう業界の雰囲気は、今も完全には払拭されていませんので、ダメ親と同じくらいダメ教師もいるんです。

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