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2008年9月16日 (火)

ペットショップとペンショップ

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 カタカナで書くと、けっこう似ています。どちらもお店であるという点も同じです。

 家族、それも小さな子供連れで訪れる人が多く、賑やか(喧噪)である前者に対し、個人や少人数の大人が訪ねるのが普通で、落ち着いた(静謐)雰囲気であることが求められる後者。

 まことに対照的なこの両者には、しかし、大いなる共通点があるのです。

 「店」すなわち、「見世棚」です。ペットショップでは、犬・猫をはじめとする小動物や小鳥、爬虫類や魚類などがかわいらしさを競い、ペンショップでは美しくディスプレイされた筆記具がオーナーを待っています。そして、それらを見ているお客さんは、本当に幸せそうです。ペットショップでは歓声が、ペンショップでは感嘆の声が聞かれます。

 危険が迫っていることに気づかず、至福のひとときを過ごしているお客さん達に、お店のスタッフは柔らかな笑みを浮かべながら、お客の心を手に入れるための呪文を唱えるのです。

 3年前の、まだ春浅い日曜日。ロードサイドのペットショップで歓声をあげる家族の中で、ただ一人、私だけが落ち着いていました。

 我が家に迎えるべき犬の条件。それは、とてつもなく厳しく、クリアすることは不可能と思えるほどのものでした。ですから、そこらへんのペットショップに飛び込んで、その条件をクリアする犬に出会える確率は限りなくゼロに近かったのです。ペットショップに足を踏み入れて、犬が欲しくなったらどうしよう、などという心配は、まったく無用でした。

 黒い柴犬で、日本犬らしく容姿端麗、それでいて釣り目でなく、鼻先が短い雌。そんな柴犬がいるとは思えませんでした。柴犬は容姿端麗ですが、多くはキリッと切れ上がった目をしています。そう、いわゆるキツネ目に近い容貌です。フレンチブルドッグやパグ犬ではないのですから、鼻先もある程度の長さがあって当然です。

 しかし、奇跡は起こるのです。神様もいれば、悪魔も存在するのです。

 私の目の前に、それは、確かにいました。黒く、目が丸く、鼻が短いその子には、「柴・女の子」というPOPが添えられていました。あまりのことに、言葉を失って立ちつくす私に、その呪文は放たれました。

「よ か っ た ら 、 お 出 し し ま し ょ う か ? 」

 意味不明な笑みを浮かべて立ちつくす私。たたみかけるように、さらなる呪文が投げかけられます。

「抱っこしたら、もう、終わりだと思いますけれど・・・」

 アホなことを。キミ、どう見ても20代やろ。キミに何がわかるっちゅうんや。んなもん、抱っこしました、あぁ可愛いなぁ、ありがとう、っちゅうて返すだけの話やないか・・・。
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 お店の外には、粉雪がちらついていました。小さな穴がいくつも開けられた箱を手に、「大丈夫かな、寒いないんやろか・・・」とつぶやきながら、足早にクルマに向かう私。名前は何がいい? 無邪気に盛り上がる家族。
 若い店員は、強力な術者であり、私には、彼の放った呪文を無効化するだけの力がなかったのです。

 あれから3年半。リビングルームの一隅で、ゆったりと過ごす彼女。食卓では、子供たちが鋭く私にツッコんできます。

 「また、呪文に負けたん?! これで何本目?」

 山が海に滑り込む直前、わずかに傾斜を緩めるところに、そのお店はあります。とても好印象でありながら、とてつもなく強力な術者がいて、足を踏み入れた者の心を虜にしてしまうのです。幾星霜を経た什器に並べられた品々は、それ自体が妖しい波動を放ち、哀れな者たちを引き寄せます。とどめに、店主が放つ最強の呪文。

 店主は言います。お客がその呪文を望んでいるのは見ればすぐにわかる。そして、お客を楽にしてあげることこそが、店主としてのつとめなのだ、と。

 かくして、心優しき店主は、悶々としてさまよえる魂を救わんがため、今日もその呪文を唱えるのです。

 「よかったら、お出ししましょうか・・・」

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コメント

なるほど、こういうことだったんですね。

「犬は抱いたら負け!」「万年筆は試筆したら負け!!」

と、常々おっしゃられている意味が、すとんと心に落ちました。


あのまん丸の目で直視されると・・・
やられるでしょうね。


飼い犬は飼い主に似るといわれますが、
実は・・・


飼い主が自分に似た犬を買うのだそうですよ。


そして娘さんが万年筆を触らない理由も
すとんと心に落ちました。

「万年筆は試筆したら負け!!」
を、彼女は親を反面教師にして知っているのです。

けど、多分、彼女も違うものを集めると思います。
収集癖は遺伝するのです。

イヒヒヒヒー。

 鋭いご指摘・・・その通りでしょうね。

 飼い犬は飼い主を、飼い主は飼い犬を映す鏡、ですね・・・。思わ頷いてしまいます。

 中屋万年筆とは十分に距離を置いていたつもりですが、以前、ひろなおさんやY店主とともにプラチナ25Gを書いてみた、あのあたりから微妙に間合いを詰められていたのでしょう。気がついたときには鼻先に刃、という感じでした。

 ル・ボナー店主の楽しみを奪ってしまった直後でしたので、思わず、これは天罰なのか、と思ってしまいました。

ついに,中屋の赤溜を買いはったんですねcatface
お店に関する表現が,何とも的確で面白く,思わず笑ってしまいました....本当にそうの通り(笑).店主様の呪文は強力で,周知のように,私も何度も負けております.先日も呪文に負けて,十角赤溜の個人注文をしてしまいました.これで中屋漆クラブの一員です.

あと,ひろなおさんがおっしゃるように,収集癖は遺伝するような気がしますhappy02.あの人も何やら嬉しそうに集めています.(これは私の一事例に過ぎないので,一般的に言えるかどうかはわかりませんが...)

Another personさん、ご無沙汰しております。

中屋漆クラブ、勢力拡大の一途をたどっておりますね。
まさか私がその一員になろうとは夢にも思いませんでした。

収集癖・・・遺伝しているような気がします。願わくば、私の
どんなことも、何一つ遺伝しないで欲しいものですが・・・。

中屋漆クラブはまだまだ増えそうですね.

ところで,つきみそうさんに触発されて(?)ブログを再開してしまいました...ブログをやるということは,私的にいろいろ問題はあるのですが.やはり,大好きな万年筆に関して何か発信したいです.この誘惑に負けてしまいました.
よかったら見に来てください.都合で,コメントは許可制になっています.週一くらいのペースでしか更新できないですが,よろしくお願いします.
http://anotherperson7610.blog60.fc2.com/blog-entry-85.html

何度もすみません.先ほど聞き忘れました.
つきみそうさんのブログをリンクにくわえさせていただいてもよろしいですか?

呪文って怖いですね・・・。私もその呪文に何回もかかっていますが、幸い、非常に強い盾を持っています。「金欠」です。
これは強いです。特に、メーカーが気合を入れて作る値段も質もデザインもすべて高い!というペンに効きます。

この効力、強すぎまして、125周年記念エドソンにまできいてしまっています…う~~~。

another personさん、こんなところでよろしければリンクしてくださいませ。

達哉ん様、その金欠の盾も、いつの日かぼろぼろに・・・

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